第十二話「問題を会計してみませんか」
最近制約理論という新しい経営管理手法が流行っている。究極のアイデアは、改善をするなら、最終的な会計処理の結果に表れるようなテーマを選ぼうというものである。つまり、改善をしても金銭的な効果がすぐでてこなければ効果的ではない、という考えである。もっというなら、最終的に金銭的な効果のあらわれない改善はしない、という考えである。

極めてドラステイックな、効率主義的な考えである。私には心理的な反発を感じさせる考えであるが、同時に何か反省させられる側面をもっている。私から見ると、このやり方は外科手術みたいなもので、長期的にはマイナス面を持っているような気がしてならない。この考え方の強力な推進者の一人である小林英三君が、無二の親友であるために、互いに言いたい放題をいいあっている。

そこで私は、あえてその対偶にある考えをここで披れきしたい。私は常々会計処理をした後で一喜一憂しても始まらない、それどころか、会計処理をしてから手を打つのを見るのは辛い、だから会計処理をする前に問題を認識して、手を打つべきだと考えている。当然、制約理論では、だから会計処理をする前の改善テーマの選択が問題なのだといっている。ここに、私の考えとの違いがでてくる。

賢明な読者はもうお分かりでしょう。

私は、極めて日本的なやり方ではあるが、組織の中の全員が自分の回りにある問題を全部出してみたらどうか、と提案したいのである。しかもそれを常時休みなく改善し続けようというのである。ここでのキーワードは、「全員」と「問題を全部」と「常時」である。

この考えを、システム化するために、まず問題が見つかることを「負債」ができたと考える。問題が解決したら「資産」になったと考える。基本的構想はこれだけである。両者の中間段階を考慮して、問題解決に着手したらば、「仕掛り負債」と呼び、解決の目処が立ったら「仕掛り資産」と呼ぶ。

後は、何千、何万と出る問題の内容を整理し、組織階層と組織機能に分類し、フォローアップしてゆけばよい。工場長の問題、課長の問題、生産技術部の問題、現場作業者の問題、などなど適切な問題の所有者に問題を割りふり、余裕を与えてこのサイクルを回し続ければよい、と言うのが私の考えである。

現在、この考えは、いくつかの企業で部分的に実験中である。お断りするが、これは現在一般に理解されている会計理論とは何の関係もない。ただ、問題の顛末をaccount(説明)しようとしているだけである。

あの賢いTOCではこれに似たやり方をシンクロナス・マネジメントというのだそうだ。

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