第十六話「アメリカの工場長たちが持つIEに対する10の頭痛の種」
アメリカIE協会の会誌solutionに、アメリカの工場長達がIE部門に対して持っている10の不満とその対策(10 Complaints your plant manageres have about you and what you can do about it)という記事がでていました。これは、IE誌の編集部が全米の工場の中から75名の工場長を選んで、インタビュ-した結果をまとめたものです。この不満がでる理由として、アメリカの工場では多くの分野の新人エンジニアを生産活動になじませるために、採用するとまず始めにIE部門に配属するという習慣があり、そのために、IE部門はいつも多くの新人で埋められており、経験を積んだ広い視野を持った人間が少ないという背景があると指摘した上で以下の不満を上げている。

その1) IE部門は流行の手法に惑わされて、自部門に固有の手法を定着させようとしていない(このコメントが飛び抜けて多く指摘されたものであった)
何故、外部の2週間セミナー[どうやら2週間セミナーが定番らしい]に出席して、新しい手法を勉強しなければならないのか?。大学で4年間以上の教育を受けながらそれで十分ではないのか?。外部セミナーの売り込みがものすごい。これらの手法(例えばセル生産、シックスシグマ、など)はあたかも万能薬であるかのように宣伝されている。[この点は、大学教育の内容と最先端の手法との解離を意味する。我が国でも当てはまることであると同時に、IE協会の責務とも関係している。]

その2) IE部門は局所的な改善プロジェクトに捕らわれていて全社的な視点を持って行動していない
IEは自分の担当範囲に限定した仕事しかせず部門エゴになっていて、ワンショットのプロジェクトにこだわっている。工場全体の物流やレイアウトを無視した改善をしたがる。

その3) IE部門は現場に行かないで仕事をしたがる
「わが社のIErに連絡するといつも事務所に居る」と指摘する工場長が多い。そのために、IEはImaginary(想像)Engineeringであると皮肉をいわれている。

その4) IE部門はコンピュータソフトを駆使した膨大な、しかも理解できないほど複雑な、レポートばかりを生み出している
自分の昇進のために、高級なモデルを使いたがる。誰も読まないレポートを平気で生み出している。

その5) IE部門はライン部門の参加や承認を得ないで提案を押しつける
[これは私が主張するスタッフ主導型の活動モードの欠点を指摘しているに過ぎません]

その6) IE部門は自部門のための仕事に埋没している
IErは自分の仕事が忙しく、自分の仕事の生産性を上げて、もっとサービスの質と量を向上させようとしていない。

その7) IE部門の提案はスムースな導入と長期的な成功を保証するだけの技術的に詳細な仕手順で示されていない
IErは現実を見ていないで自分勝手な計画を立て中途半端な提案をする。全ては単純に計画した通りに起こり、例外など起こらないという前提でものごとを考えていて、きれい事で仕事を終わらせる。

その8) IE部門は当然なことを証明するために膨大な時間をシミュレーションのために使う
生産工程のコンピュータシミュレーションには多くの前提条件が必要である。現実的でない前提の上に立つ高級なシミュレーションをしても意味がない。IErはそれをやりたがる。手法中心的で、手法を使うためにそれに合う問題を探している。

その9) IE部門はルーチン業務で終わっている
IErは標準時間設定、工程設計、部品表の整備というルーチン業務に精通していなければならないが、これで終わってしまっている。

その10) IE部門は命令されたことだけして、彼らがすべきことをしていない
IErは全工場的視野に立てるベストな立場にいるのに、自分の責任範囲に止まっていて、他の機能分野を取りまとめた広い視野に立ったリーダシップを取ろうとしない。
上記の問題点に対して前向きな姿勢で対応するために、同誌は以下の提案をしている。

1) 基礎をしっかり固める
作業測定、目標設定、フィードバックシステム、トータルバリュー分析、生産システム設計の基礎をしっかりと身につけ、広い視野で責任を果たしなさい。

2) 例を示せ
自分でやって見せて、リーダシップを発揮しなさい。

3) 生産ラインの設計に責任を持て
現場に出て、現実的なシステム作りで成果を上げなさい。

もう、賢明な読者はもうお分かりでしょう

このレポートをお読みになった方々の反応は二つに分かれます。一つは、「何だこれはうちの会社のことをいってるのではないか」という反応であり、もう一つは、「なんと遅れたIE部門なのか。まだこんなことを言ってるところがあるのか」というものでしょう。

このことは、日本のIE活動が会社によって差が開いてきているということです。前者の反応をする会社は大いに反省すべきでしょう。これは私が主張するスタッフ主導型に近い組織形態をとっていることを意味し、ラインの参加を期待した形態になっていないことを意味します。

それにしても、アメリカの改善活動形態が相変わらずスタッフ主導型にとどまっているのは嘆かわしいと思います。責任あるIE誌のインタビュー記事ですから、嘘や誇張があるとは思えません。アメリカ(あるいは西欧のと言ってもよいと思いますが)のIE活動のマネジメントが、どうしても標準時間の設定や刺激給与精度などに足を引っ張られる結果、地道な積み上げが出来なくなっていることと、さらに、IE部門の役割が他の分野のエンジニアーの訓練機関になってしまって、全社的レベルのスタッフ活動まで手が回っていないということは嘆かわしいことです。

私はIE誌が指摘していない重大な二つの点を指摘したいと思います。一つは、IE活動におけるラインとスタッフのかかわり方に関する組織論的視点から、ラインの参加の重要性を指摘していないことと、もう一つは、IE誌には多くの研究成果が発表されてはいるが、コンピュータ・シミュション・モデルや数学的な手法に重点が置かれていて、工場で求めている現実的な問題に取り組んだ研究が少ないということです。その証拠が2週間セミナーの多くは、実務の世界から(かなり日本製が含まれる)生まれた手法であるということです。我が国のIE協会の方が事例の報告と見学会の開催でこの問題を積極的に処理しているように思います。

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